問7. 左心駆出率の保たれた心不全(HFpEF)への薬物療法において、classⅠのものをえらべ。
a) イベント発生抑制目的でのACE阻害薬ないしβ遮断薬の投与
b) うっ血に伴う自覚症状軽減目的での利尿薬の投与
c) ループ利尿薬を選ぶ際に、長時間作用型を選択
d) 退院後もうっ血管理目的でトルバプタンを継続
e) 予後改善や活動度向上のための硝酸薬の投与
解答を読むa) HFpEFの場合は、十分な予後改善効果が示されておらず、RAAS阻害薬やβ遮断薬はclassⅡa止まりである。
b) 文章の通り。
c) ClassⅡbである。J-MELODIC試験において、長時間作用型のアゾセミドが短時間作用型フロセミドよりも心不全での再入院の回避と心血管死を回避しえた、という発表がなされ、若いドクターを中心にして急激にアゾセミドの処方が増えた感がある。だが、この試験はPROBE法でデザインされており、ソフトエンドポイントで結論づけられた点を忘れてはならない。実臨床では腎不全を合併した心不全症例は数多く存在しているが、腎不全ではフロセミドの半減期が延長するため、試験結果を鵜呑みにすることは控えなければならない。
d) ClassⅡaである。トルバプタンは、その作用機序を考えると、バソプレシンが亢進した病態に有効性を発揮する筈である。従って、ループ利尿薬抵抗性の体液貯留型心不全に効果的と考えられるのだが、ループ利尿薬との機序の違いを意識せず、漫然と処方したり処方をやめたりする場合が散見される。私見に過ぎないが、製造側が適応拡大を急ぐあまり、発売当初のような適正使用に関する活発な啓蒙活動をあまり行わなくなってきたことも一因なのではないか、と思う。
e) ClassⅢである。HFpEF症例で血圧が高く、低ADLの高齢者に対して硝酸薬の貼付剤を使用することがあるが、心不全治療としての有益性は高くないということを認識しておくべきである。
問8. 器質的心疾患に伴う持続性VTの症例において、二次予防目的でICD植え込み術を行う上でclassⅠのものを二つえらべ。
a) アブレーション成功例や、VTに有効な薬剤が見つかっている場合
b) 12か月以上の余命が期待できない例
c) 頻拍中の血圧が80mmHg以下、あるいは脳虚血症状や胸痛を訴える場合
d) 薬剤やアブレーションでコントロールが出来ない頻回に繰り返すVF・VT
e) 血行動態の安定している単形性VTだが、アブレーションが無効、または有効な薬剤が見つかっていない場合
解答を読むa) classⅡaである。
b)、d)ともにclassⅢである。
c)、e)のほか、多形性VTや失神を伴うVTはclassⅠである。
問9. 器質的心疾患を有する患者への一次予防目的のICD植え込み術について、正しいものを二つえらべ。
a) NYHAⅠ度とNYHAⅣ度には適応外である。
b) 催不整脈性右室心筋症/異形成と診断され、失神を有する場合でも、失神の原因が不明であれば適応外である。
c) β遮断薬に不応性で、家族歴を有するQT延長症候群に対してはclassⅡaである。
d) 冠動脈疾患または拡張型心筋症にclassⅠの適応でICD植え込み術を行う場合、EF35%以下が必要条件である。
解答を読むa) NYHAⅡ度とⅢ度が対象であるが、NYHAⅠ度であっても中等度の心機能低下があり、EPSでVfが誘発されるようならclassⅡaで適応となる。
b) 催不整脈性右室心筋症では、失神の既往が突然死の予測因子になるためclassⅡaとなる。
c) 文章通り。
d) 文面通り。上記a)のごとく、EF50%前後でもclassⅡaで適応となる例もある。
問10. CRT-Pの適応がclassⅠのものはどれか。
a) 最適の薬物治療でもNYHAクラスⅢまたは通院可能な程度のクラスⅣの慢性心不全を呈し、左室駆出率35%以下、QRS幅120msec以上で、洞調律の左脚ブロックの場合
b) 最適の薬物治療でもNYHAクラスⅢまたは通院可能な程度のクラスⅣの慢性心不全を呈し、左室駆出率35%以下、QRS幅120msec以上で、心房細動を有する左脚ブロックの場合
c) 最適の薬物治療でもNYHAクラスⅢまたは通院可能な程度のクラスⅣの慢性心不全を呈し、左室駆出率50%未満で、ペースメーカが植込まれ、または予定され、高頻度に心室ペーシングに依存するかまたはそれが予想される場合
d) 最適の薬物治療でもNYHAクラスⅡの慢性心不全を呈し、左室駆出率35%以下、非左脚ブロックだがQRS幅150msec以上、高頻度ペーシングが可能な心房細動の場合
e) 心不全以外の慢性疾患により身体機能が制限されたり、余命が12か月以上期待できない場合
解答を読むCRT-Pとは、ペーシング機能のみのCRTである。
a) 左脚ブロックであるかどうかが適応の大きな分かれ道である。左脚ブロックの存在が、左室内の収縮運動が非同期であることを強く示唆するからである。
b)、c)、d)はclassⅡa
e)はclassⅢ。CRT有効性の予知指標として左室駆出率の低下と心電図上の幅広いQRS波が重要である。 多くの臨床試験はQRS幅が120~150msec以上の症例を対象として実施されており、本ガイドラインでも幅広いQRS波の基準が120msec以上となっている。特にCRTの効果は150msec以上の著明な幅広いQRS波を有する例で顕著である。別途『不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)』と比べると、EF値の微妙な差異は認められるが、おおよその適応は同じようである。
問11. 心不全の併存症としての心房細動管理で、classⅢのものを二つえらべ。
a) 緊急的な電気的除細動
b) ランジオロール
c) ジゴキシン
d) ベラパミル
e) シベンゾリン
解答を読む選択肢にあるベラパミル、すなわちワソラン®は日常的に頻用される薬剤であり、特に非循環器内科医が対症療法に用いることが多い。半減期が5時間程度で使いやすいうえに徐伯化作用が強いことが最大の理由のようであるが、陰性変力作用を有していることを忘れてはならない。迂闊に低心機能症例に対してベラパミルを用いると急激に血圧が下がる場合があり、推奨さえされていない。
シベンゾリンも頻用される薬剤であるが、古典的なVaughan-Williams分類(“ヴォーン・ウィリアムズ分類“と読む)でいうところのⅠ群抗不整脈薬にも陰性変力作用があるため、心不全併存の心房細動には推奨されない。心機能低下例でリズムコントロールを目指すならば、電気的除細動、アブレーション、アミオダロンを考慮する。
問12. 心不全併存症に関する記載で、誤っているものをえらべ。
a) 慢性腎不全ステージ3において、ACE阻害薬やARBはclassⅠである。
b) 血清尿酸値は心不全の予後マーカーになりうる指標である。
c) COPDを併存した心不全(左心駆出率低下例)にβ遮断薬は禁忌である。
d) 心不全に合併した貧血に対し、経口鉄剤はclassⅢである。
e) 症候性睡眠時無呼吸症候群において、無呼吸低呼吸指標≧20で在宅酸素療法、もしくはCPAP療法の保険適応である。
解答を読むa) 慢性腎不全ステージ3において、ACE阻害薬やARB、β遮断薬、抗アルドステロン薬、ループ利尿薬はいずれもclassⅠである。
b) 文章の通りであるが、多くの肯定的な文献はサブ解析結果などを根拠としており、エビデンスレベルがclassⅠに達しきれていない。
c) 文章の通りであるが、多くの肯定的な文献はサブ解析結果などを根拠としており、エビデンスレベルがclassⅠに達しきれていない。
c) ClassⅠである。
d) 文章の通り。
e) 文章の通り。中等度以上の睡眠時無呼吸とはAHI≧15を指すが、本邦の保険診療適用レベルはAHI≧20である。
問13. 心不全基礎疾患の特殊病態のうち、短絡疾患が関与するものをえらべ。
a) 心筋炎
b) 高拍出性心不全
c) 急性肺動脈血栓塞栓症
d) 機械的合併症
e) 高血圧緊急症
解答を読む本問は、特殊病態の把握を問う問題として提示した。
―MR.CHAMPH
心筋炎 (Myocarditis)
右心不全 (Right-sided heart failure)
急性冠症候群 (acute Coronary syndrome)
高血圧性緊急症 (Hypertension emergency)
不整脈 (Arrhythmia)
機械的合併症 (acute Mechanical cause)
急性肺動脈血栓塞栓症 (acute Pulmonary thromboembolism)
高拍出性心不全 (High output heart failure)
問14. 心不全に対する疾病管理において、classⅠのものをえらべ。
a) 禁煙
b) 1日6g程度の減塩食
c) 摂取
d) 感染予防のワクチン接種
解答を読む減塩は心不全治療の基本であるが、明確なエビデンスに乏しいのが現状である。しかしながら、心不全でレニン・アンジオテンシン系が亢進した状態とは、塩分感受性が亢進した状態を指しているのであって、塩分制限で体液過剰を防ぐことは理にかなった指導である。今後のエビデンスの集積に期待したい。
問15. アドバンス・ケア・プランニング(ACP)に関する記載として合致しないものを二つえらべ。
a) 終末期事前指示として、蘇生処置を試みないことやペースメーカー、植え込み型除細動器などの医療機器停止を行うかどうか、患者が決定できるよう支援する。
b) 緩和医療は終末期医療と同義である。
c) 緩和ケアの導入時期は、心不全が症候性となり、終末期を迎えた時点で考える。
d) β遮断薬とSSRIの同時投与で死亡率上昇の報告がある。
e) 終末期の除痛として、ミダゾラムが第一選択となる。
解答を読む終末期医療と緩和医療は同義ではない。緩和ケアは、心不全が症候性となった早期から考慮する必要がある。
本問で提示した以外に、今回のガイドラインではオピオイドの有効性も強調されている。吐き気、便秘、呼吸抑制に注意すれば、呼吸困難感のほかに除痛や抗不安効果も期待できる。なお、不安感の強い症例ではベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用も考慮されるが、オピオイドに比べて効果は限定的とされる。