問1. 以下のACCF/AHA心不全ステージ分類に準じた文章で、ステージC相当のものをえらべ。 a) 健康診断で無症候性の心室性期外収縮と糖尿病を指摘されて精査を受けたが、特に期外収縮は1日に数回程度であり、器質的心疾患は無く、心不全症候もない。 b) 高血圧症と糖尿病で内服加療中の患者であり、無症候性に収縮期雑音が聴取されたために心エコー図を行ったところ、軽度の僧帽弁逆流が同定された。 c) うっ血性心不全で入院歴があり、拡張型心筋症と診断されているが、内服加療で良好に経過しており、数年間心不全の増悪もみられていない。 d) 至適薬物治療を行っていても、年間2回以上の心不全入院を繰り返している患者で、日常生活程度の労作でも息切れを自覚している。 e) 体外循環補助装置を装着しており、安静時でも心不全症候が認められている。
解答を読むa) ステージA相当である。
b) ステージB相当である。
c) ステージCに相当する。
d) ステージD相当である。
e) ステージD相当である。
問2. 心不全の血行動態指標に関して、正しいものをえらべ。 >a) ForresterⅡ型は、心係数2.2 L/分/m2以上、肺動脈楔入圧18mmHg 以下である。 b) Nohria-Stevenson分類でのProfile Bとは、低灌流所見が無く、うっ血所見も無いものである。 c) Norhria-Stenvenson分類上、短期間での死亡例はProfile LとCに多かった。 d) 四肢冷感があり、頸静脈怒張や浮腫がある場合は、Norhria-Stenvenson分類でのProfile Lに相当する。 e) 脈圧が小さい場合は低灌流所見の可能性を考慮する。
解答を読むa) Forrester分類のⅠ型に相当する。Ⅱ型では肺動脈楔入圧が18mmHg以上となる。
b) Nohria-Stevenson分類のProfile Aに相当する。Profile Bとは、Forrester分類のⅡ型に近似するため、wet-warmの身体所見を示す。
c) 短期間での死亡例はProfile CとBに多かったとされている。
d) Profile Cに相当する。文章のような症例はdry-coldのProfile Lに該当し、補液が必要である。
e) 文章の通り。
問3. 心不全を診断するうえで、誤っているものを二つえらべ。
a) 血中のBNP値やNT-proBNP値は、年齢や腎障害、貧血、体格などでは左右されないため、心不全を疑った場合にこれらの指標で一律に診断することができる。
b) 夜間呼吸困難、頸静脈怒張があれば、フラミンガム基準上は心不全と診断できる。
c) 臥位の状態で、内頸静脈の怒張が確認されれば、静脈圧は亢進していると推定される。
d) 胸部レントゲン写真でbutterfly shadowが認められた場合、肺静脈圧は30 mmHg以上と推定される。
e) 左心駆出率>50%以上の心不全患者において、拡張能障害を判断する指標はE/e’、e’、三尖弁逆流速度、左房容積係数の4点である。
解答を読むa) 血中BNP値やNT-proBNP値は日常診療上でも頻用されているが、加齢や腎障害、貧血があれば高値となり、肥満があると低値となる。これらのバイオマーカーがわずかに高値だからといって心不全と決めつけることはできない。
b) フラミンガム基準は左心不全と右心不全の所見が混在されたものであり、初学者を混乱させる一因となっている。また、喘息の急性期でも頸静脈と夜間の呼吸困難は起こりうるし、肺水腫と肺ラ音はARDSのような非心原性肺水腫でも生じる所見である。この基準自体が1971年来のものであることを念頭に、機械的に諸項目を当てはめて考えていくのではなく、病歴や臨床所見、他の検査結果などから総合的に心不全かどうかを診断していくことが臨床医にとってセンスが問われるところである。
c) 上半身を45度拳上させた姿勢として、胸骨角から内頸静脈拍動の頂点までの垂直距離が3cm以上あれば、静脈圧は上昇していると考えることができる。
d) 文章の通りである。
e) e’(eプライム)とは、僧帽弁輪の動きを測定したエコー指標である。通常、僧帽弁輪は左室の収縮と拡張によって揺さぶられるように上下運動をしている。左室の拡張能が下がると、左房側から血液を吸い込む勢いがそがれてしまうため、僧帽弁輪の動く速度が遅くなる。この変化が、e’の低下として示されるのである。ただし、陳旧性前壁心筋梗塞症のように壁運動異常があるケースなどでは数値の信頼性が低下するとされている。
問4. 運動耐容能に関して、誤っている記載をえらべ。
a) 身体活動能力指数(SAS)上、ラジオ体操は3-4METs相当である。
b) SAS上、庭いじりは4METs相当である。
c) SAS上、健康人と同速度で2階まで昇っても平気であれば、5-6METs相当である。
d) SAS上、健康人と同速度で平地を100-200m歩いても平気であれば、2-3METs相当である。
e) SAS上、急いで平地を200m歩いても平気であれば、6-7METs相当である。
解答を読む健康人と同速度で平地を100-200m歩いても平気であれば、3-4METs相当である。あえて重箱の隅をつつくような出題となったが、プライマリケアの場では、診察室での問診が非常に重要となる。病院まで歩いても平気かどうか、医療施設内の2階まで階段を昇っても息切れがしないかどうか(膝を痛がる高齢者は多いが)、これらを問うことでおおまかなSASを推定することができる。運動耐容能に関しては、別途の『非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン(2014 年改訂版)』において、手術への耐容能評価に直結する指標となるため、非循環器内科医でも把握しておきたい領域である。
問5. 心不全予防に関して、危険因子に対する介入の推奨クラスがclassⅠではないものを二つえらべ。
a) 高血圧例へのサイアザイド系利尿薬の投与
b) 冠動脈疾患例において、心筋梗塞発症3日以降、かつ28日までの完全閉塞責任冠動脈に対するPCI施行
c) 心血管既往のある2型糖尿病例へのエンパグリフロジン、またはカナグリフロジンの投与
d) 肥満・糖尿病例への禁煙指導
e) 肥満・糖尿病例への節酒指導
解答を読むいずれも文章の通りであるが、近年のEMPA-REG試験とCANVAS試験では、劇的な死亡リスク低下が示された。一方で、実際のHbA1c値の低下はあまり顕著ではなかった。この点から、SGLT-2阻害薬が心不全症例に効果的だったのは、血糖降下作用ではなく、血圧降下、抗肥満、利尿といった働きがトータルで血管保護や心不全抑止に寄与したのではないかと推測されている。少々混乱を招くかもしれないが、本問は『心血管疾患の既往のある2型糖尿病患者が心不全にならないようにする予防という観点ではclassⅠ』という内容である。同じガイドラインを読み進めていくと、『心不全を合併した糖尿病に対するSGLT2阻害薬のエビデンスレベルはclassⅡa』となっている。今回のガイドライン改定のキモの一つが、このような『心不全にならないようにするには』という予防の項目が付記されたことである。
問6. 左心駆出率の低下した心不全(HFrEF)への薬物療法において、classⅠのものをえらべ。
a) 禁忌を除く、全ての症例に対するACE阻害薬の投与
b) 無症状の収縮不全心症例に対するβ遮断薬の投与
c) ACE阻害薬未導入の収縮不全心に対する抗アルドステロン薬の投与
d) ループ利尿薬抵抗性の体液貯留に基づく心不全症例へのバソプレシンV2受容体拮抗薬の投与
e) 狭心症、高血圧を合併していない患者に対するカルシウム拮抗薬の投与
解答を読むa) 文章の通り。ACE阻害薬に忍容性が無い場合は、ARBを選択することになる。
b) β遮断薬の投与がclassⅠで推奨される例は、症候性の患者への投与である。ただし、症状が出ないように労作を控えている患者も多いため、真に無症状であるかどうか慎重な問診が必要である。
c) 抗アルドステロン薬はループ利尿薬、ACE阻害薬が導入され、かつNYHAⅡ度以上の症例でclassⅠとなる。血圧が低くACE阻害薬を導入できないからといって、スピロノラクトンで代用…という方法が散見されるが、本来の推奨度には合致しないやり方であり、予後改善に寄与しているのか不明である。
d) 文章の内容は正しいが、classⅡaである。
e) ClassⅢ相当である。カルシウム拮抗薬は高血圧治療で頻用されているが、代償性頻脈などの副作用のために心不全の予後改善効果は認められていない。