問10 ACSへの初期治療に関して、誤っているものを二つえらべ。
a) 硝酸薬投与中に血圧が低めに経過している場合、ACE阻害薬やβ遮断薬の導入よりも硝酸薬の継続を優先する。
b) 勃起不全治療薬を服用して24時間以内の症例に対する硝酸薬の使用は禁忌である。
c) 右室梗塞例への硝酸薬の使用は禁忌である。
d) ACSでの持続性胸痛に対しては塩酸モルヒネが有効である。
e) アスピリン喘息の既往があっても、ACSの場合にはアスピリンの使用が許容される。
解答を読む
a) 硝酸薬は血圧低下作用による予後改善効果が認められているものの、より心筋リモデリング抑制効果や死亡率減少効果のあるレニン・アンジオテンシン系阻害薬、β遮断薬の方が使用優先度は高い。
b)~d) 文章通り。
e) 禁忌である。この場合はチエノピリジン系抗血小板薬を用いる。
問11 ACSへの経皮的冠動脈形成術(PCI) について、誤っているものをえらべ。
a) ベアメタルステント(BMS)が第一選択である。
b) 橈骨動脈穿刺が第一選択である。
c) ルーチンでの血栓吸引療法は推奨されない。
d) 非責任血管へのPCIの実施については、classⅡb相当である。
e) ACSへの緊急PCIは、予後を改善する。
解答を読む
a) かつてはACSへの留置ステントはBMSが主であったが、薬剤溶出型ステント(DES)の性能が上がり、ステント血栓症や再血行再建率が有意に低いこと、抗血小板薬の二剤併用療法の継続期間が短くなったことなどから、ACSへのステント利用は、DESが主体となった。
b) 橈骨動脈からアプローチする方が、血腫などの合併症が少ない。ただし、複数のデバイスを使用する複雑な手技を行う場合は、7Fr以上の太いシースを挿入する必要があるため、その場合は大腿動脈からアプローチせざるをえない。また、腎不全の症例の場合も、橈骨動脈を温存する都合上、大腿動脈からのアプローチが望ましい。
c) 2013年のガイドラインでは、血栓吸引はclassⅡaであったが、期待されていたほどの予後改善効果が得られず、脳梗塞の発症数もやや多かったことからclassⅡbに格下げされた。もっとも、こうしたArtに関するものは、病変部の性状によって評価をするべきものと筆者個人は考えている。プラークが多く飛散しそうな病変と、そうでない病変、灌流域の大きい病変と、小さい病変・・・そういった“診断”を成さずに、やみくもに血栓吸引に固執するのはよくない、というのがclassⅡbに格下げされた真意であろう。
d) 文章通り。残存狭窄への血行再建術に関しては、エビデンスで明確化されていない。ACS後の心機能の程度や個人の経済状況、病変部の灌流域の差など、十把一絡げにできないためであろう。
e) とくにショック状態のACSは、原則として緊急カテーテル手技の適応である。
問12. Primary PCIに関する記述として、正しいものをえらべ。
a) 使用ステントは薬剤溶出型ステントが第一選択となる。
b) ACSと診断して、病変部にデバイスを通過させるまでの目標時間は90分以内である。
c) ACS発症から24時間以内のPCIが望ましい。
d) ACS発症から24時間以上が経過しており、血行動態が安定していても、積極的にPCIを行うことが望ましい。
e) 本邦において、高齢者の症例であっても、心原性ショックを合併したACSへのprimary PCIは予後を改善する。
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a) 文章とおり。
b) 本邦でのレジストリでは、診断から病変部デバイス通過までに要した時間が90分以内の群も、90分を超えた群と長期成績が変わらなかった。一方、「診断から」ではなく、「発症から」病変部デバイス通過までに要した時間が短いほど、成績が良好であった。つまり、「診断からデバイス通過までの90分」とは、“目標時間”ではなく、“最低限の許容時間”である。
c) 上記b)の理由で、ACS発症から早期の再灌流を目指すべきであり、ガイドラインでは12時間以内と設定されている。
d) 発症から24時間以上が経ち、血行動態が安定している症例へのルーチンのPCIはclassⅢ相当とされている。
e) 本邦でのデータでは、75歳以上のACS症例(心原性ショック合併)へのprimary PCIは、予後を改善させなかった。
問13. Primary PCIに関する記述として、正しいものを二つえらべ。
a) 心肺停止から自己心拍が再開したら、原則的に全例冠動脈造影を行う。
b) ACSへの血栓吸引療法のルーチン使用は推奨されない。
c) 経橈骨動脈アプローチを第一に考える。
d) アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の内服は、ステントを留置する寸前に行う。
e) プラスグレルはクロピドグレルよりも薬効の個体差が大きい。
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a) 心肺停止の原因疾患は、必ずしも虚血性心疾患とは限らない。
b) IVUSで超音波減衰が目立つ症例では、血栓吸引や末梢保護デバイスでno-reflow現象の発症を抑えられたという報告もあるが、ルーチンの使用は脳塞栓症のリスクを招きうるため推奨されない。
c) 経橈骨動脈アプローチの方が、合併症が少ない。
(※実際の試験問題でも、このような漠然とした問題文で提示されることがままある。
少々言い訳がましいが、ACSのガイドラインのポイントを狙う問題である、という意図を汲んでほしいと思い、あえてこのような問題文にした。)
d) ステント血栓症のリスクを少しでも減らすため、緊急冠動脈造影が決定した時点でDAPTを開始する。
e) 逆である。プラスグレルの方が、薬効の個体差が小さい。
問14. Primary PCIで使用される抗血小板薬として、最も推奨度が低い薬剤はどれか。
a) バイアスピリン
b) シロスタゾール
c) クロピドグレル
d) プラスグレル
e) チクロピジン
解答を読む
シロスタゾールも使用できなくはないが、ステント血栓症の発生率がチクロピジンよりも高いうえ、心拍数が早くなるため、その使用は限定的である。
問15. 抗血栓薬に関して、正しいものを二つえらべ。
a) 2018年版のガイドライン以降、2剤併用抗血小板療法(DAPT)の継続期間は1年間と定められた。
b) DAPTにおいて、アスピリンとの併用が推奨されている薬剤は、クロピドグレル、もしくはシロスタゾールである。
c) DAPTにおいて、チエノピリジン系抗血小板薬の投与が困難な場合は、チカグレロルの投与を考慮する。
d) 抗凝固薬の併用が必要な症例にDAPTを導入して三剤併用の抗血栓療法になった場合、ステント内血栓症予防のため三剤併用療法は必ず継続するべきである。
e) ACSに対するアスピリン単独での血管系死亡率の低下作用は23%前後である。
解答を読む
a) STOP-DAPT試験などが発表されて以降、半年~1年間程度でDAPTが解除される例が多くなった。しかし、2018年時点ではガイドラインで推奨できるほどエビデンスの集積は不足している。第3世代ステントを使用したデータが主流となって以降のエビデンスが集まれば、(おそらく次回の改訂版では)より明確なDAPT解除時期についての言及がなされるのではないだろうか。
b) DAPTでまず推奨されるのは、クロピドグレル、もしくはプラスグレルである。シロスタゾールも使用可能であるが、クロピドグレルとプラスグレルが使用しがたい場合に適応となる。
c) チカグレロルはクロピドグレルとの臨床成績に差が無く、2018年版の時点では「可もなく不可もなく」といった立ち位置である。2019年時点では、「クロピドグレル、プラスグレルでダメなら可」、「陳旧性心筋梗塞症例で使用可能」、「糖尿病を合併しているとダメ」と、いじめのような保険適応のしばりがあって処方をしにくいが、可逆性の抗血小板薬という本質的には画期的な薬剤であり、出血性リスクを抱えた症例に対しては、より積極的に使用を考えてもよいのではないか、と筆者個人は考えている。重大な出血性イベントを定性評価するとアスピリン単剤とくらべて多くなるため(当然)、薬の半減期と出血性イベントの定量評価がクリアに評価されれば、もう少し使いやすい薬剤になるのではないだろうか。
d) WOEST試験の結果を受けて、「DAPT+抗凝固薬」と「クロピドグレル単剤+抗凝固薬」の両群間でステント内血栓症の発症に差が無く、出血性イベント数は後者で少なかったことが明らかにされた。これは臨床医家の実感としても納得のデータであり、ステントの本数や留置部位、腎障害の程度や年齢など総合的にかんがみて、「減らせそうなら減らす」で良い、ということである。
e) 処方が当たり前になると、つい具体的な効果を失念しがちであるが、一般の患者さんにとっては「当たり前ではない」のである。患者の自意識も高まる昨今、「このクスリで何がどのくらいよくなるか」を明確に説明できるようにしたい。
問16. ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)に関して、誤っているものをえらべ。
a) Ⅰ型HITの血小板数は、ヘパリン継続下でも自然に回復する。
b) Ⅰ型HITによる血小板低下は、ヘパリン投与5~14日後に発症する。
c) Ⅱ型HITは主として抗PF4・ヘパリン複合体抗体(HIT 抗体)の産生による。
d) HITへのアルガトロバン使用は保険適応外である。
e) アルガトロバンは肝代謝性である。
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a) 文章通り。
b) Ⅰ型HITは、ヘパリン投与の翌日~3日後に発症する。
c) 文章通り。Ⅱ型HITは自己免疫性疾患であるから、自己抗体が産生されるまでに1週間近くを要する。
d) 2011年以降、HITに対してもアルガトロバンの使用が保険承認された。
e) 文章通り。従って、肝機能異常の症例の場合は投与量を減じながら、ACTでのモニタリングが必要である。
問17. 急性冠症候群に対する血栓溶解療法の絶対的禁忌ではないものを二つえらべ。
a) 頭蓋内出血の既往
b) 6か月以内の脳梗塞
c) 出産1か月以内
d) 1か月以内の消化管出血
e) 重症高血圧
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上記のほか、頭蓋内新生物、動静脈奇形も絶対的禁忌に該当するが、初診、かつ既往歴のない症例の場合、動静脈奇形を投与前に確認する手段は現実的には難しい。
問18. 非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)における治療戦略上、早期の侵襲的治療戦略が妥当とされるものを二つえらべ。
a) 心電図変化がある例
b) 糖尿病合併例
c) 腎機能障害合併例
d) 早期の梗塞後狭心症
e) 薬物治療抵抗性の持続性胸痛の例
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ST上昇の無いACS症例に対して、どのタイミングで心臓カテーテル検査・治療を行うかは賛否の分かれるところであるが、そもそも非ST上昇型というものは、旧来の非貫壁性の梗塞であったり、多肢病変で障害電流が相殺されていたり、完全閉塞には至っていない不安定狭心症であったり・・と、多彩な病態を包括した概念であるから、「STが上がっていなければこうするものだ」と一本化すること自体が不可能である。
動的な心電図変化を来たしている症例は、プラークの破綻で冠動脈が閉塞したり、なんとかチョロチョロと流れたり・・・を繰り返している状態を示唆しており、痛みっぱなしの症例は梗塞状態の可能性が高いわけであるから、早期のカテが望ましい。
問19. CCUでの一般治療に関して、正しいものをえらべ。
a) ルーチンで酸素投与をおこなう。
b) 急性期は、インスリン持続注射などを用いながら積極的に血糖管理をおこなう。
c) 導尿留置カテーテルはルーチンで挿入する。
d) 入院時にHbA1cを用いて、糖尿病のスクリーニングを行う。
e) 上記のいずれも不適切である。
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かつては“MONA”のひとつとしてルーチンでの酸素投与を指導されていたが、低酸素血症のない患者への酸素投与の有効性は否定的とされ、2018年版のガイドラインからはルーチン投与を推奨されなくなった。
問20. ACS症例への薬剤投与に関して、正しいものをえらべ。
a) STEMIへのβ遮断薬投与で心原性ショックの発症率が低下する。
b) レニン・アンジオテンシン系阻害薬は、全ての症例にルーチンで投与する。
c) 高度徐脈を伴っていても、硝酸薬は使用することが推奨される。
d) 短時間作用型ジヒドリピリジン系Ca拮抗薬のルーチン投与が推奨される。
e) LDLコレステロールの値に関わらず、可能な限り最大量のストロングスタチンのルーチン投与が推奨される。
解答を読む
a) β遮断薬の投与で減少するのは致死性不整脈、院内致死率である。ただし、PCIが普及化した現代的背景でのデータには乏しいうえ、海外のデータの多くは本邦で未承認のメトプロロールばかりなので、エビデンスレベルは低い(そのはずなのに、なぜかエビデンスレベルはA表示)。
b) 左室機能低下や心不全リスクの高い症例が適応となる。しばしば誤解されがちだが、心機能低下に至らなかった症例に関しては、必須ではない(とはいえ、もともとACSのリスクファクターである高血圧を背景に有する患者は多いので、どのみち降圧目的で処方されるケースは多い)。
c) 右室梗塞を合併した下壁梗塞の場合のほか、迷走神経反射を伴いやすいため、高度な徐脈、低血圧の症例への硝酸薬投与は薦められない。
d) Caはプラーク破綻機序のACSに対しては予防効果を持たないが、冠攣縮性狭心症の多い本邦においては、β遮断薬と同等のイベント抑制効果が認められた。一方、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は代償性頻脈を招きうることから、心筋虚血を抑える観点からは好ましくないとされる。
e) 本邦にて行われたREAL-CAD試験において、高容量のストロングスタチンによる冠疾患のイベント発生率低下が示された。スタチンによる冠動脈プラークの退縮効果が期待できるため、最大量のストロングスタチンの投与が推奨されている。昨今のトピックスとして、ストロングスタチンでも予防効果が不十分な場合には、エゼチミブやPCSK-9阻害薬の併用を考慮する。なお、スタチン投与による横紋筋融解やエスケープ現象(LDL再上昇)といったリスクもcheckしておきたい。
問21. ACSに対する補助循環に関して、誤っているものをえらべ。
a) 大動脈内バルーンポンプはAMIの30日死亡率を改善させる。
b) IMPELLA補助循環用ポンプカテーテルは経皮的に装着できる。
c) 心室中隔穿孔は、静動脈体外膜型人工肺(VA-ECMO)の良い適応である。
d) 薬剤不応性の心原性ショックは、VA-ECMOの良い適応である。
e) 心筋虚血の範囲が大きく、IABPなどの補助循環からの離脱が困難な場合は左心補助装置(LVAD)の適用を考慮する。
解答を読む
a) IABPに限らず、補助循環装置に関する無作為化試験は、救命を前提にした状況下で行われている都合上、交差のバイアスが不可避であるため、統計的な有意性を確立しがたい。少なくとも、血腫や血球破壊の合併症もあり、重症度を顧みないルーチン使用は控えるべきである。
b) IMPELLA(インペラと読む)は、近年本邦でも使用可能になった経皮的補助循環デバイスである。モーター駆動で左室内から大動脈に血液を汲み出す流量補助循環で、今後の使用成績(経験)の集積が期待される。
c) VA-ECMOとは、従来では経皮的人工心肺(PCPS)と呼ばれていた補助循環のことであり、近年は欧米と同じ呼称が提唱されていることから、設問にもVA-ECMOという名称を使用した。VA-ECMOは、右房から脱血して大動脈に送血する(左室から見れば、逆向きに血液が押し出されてくる)システムである。よって、心室中隔穿孔のように、左室から右室側に圧がかかる病態では、外科手術までの時間を稼ぐまでの有用なツールとなる。
d) VA-ECMOの適応は論争の最中にあるが、少なくとも各種カテコラミンを使用してもアシドーシスを解消できなければ従量式の補助循環を利用するしか手段がない。IMPELLAの使用も期待されるが、普及にまだ時間を要する点を考えると、まだ臨床の場ではVA-ECMOに頼らざるをえないであろう。
e) 文章の通り。