この記事は、2022年11月12日に更新しました。
小児診察。
それは、研修医の大きな試練のひとつでしょう。
小児は成人と比べて意思疎通が難しく、患児本人から詳細なアナムネを聴取できないことが多いため、しばしば診療に難儀することがあります。
医者の姿を見ただけで啼泣してパニックになってしまう幼児などは典型例でしょう。
そこで保護者との連携が大変重要なのですが、研修医や初学者はつい及び腰になりがちです。
それは、保護者との連携をうまくとれず、ときにはトラブルに発展しうるからだと思います。
小児診察のガイド本は巷にあふれています。
たとえばデータの解釈のしかた、先天性心疾患の注意点、小児救急のピットフォールなど・・・。
いずれも大事な内容なのですが、どれにも共通して言えるのは、あくまでも『医療者視点』で書かれている点です。
ドクターは医学的見地から意見を求められるのですから、医療者視点に立つことに間違いはありません。
ですが、ふだん患児を世話しているのは保護者であり、その看病、教育を施すのも保護者なのです。
夜泣きで毎晩起こされ、何年間も熟睡できていない母親、父親は珍しくありません。
彼らは、毎日夜間当直をしているようなものです。
変なものを食べさせて具合を悪くさせないだろうか
変な洗剤で洗濯して皮膚炎にならないだろうか
つい目を離した隙に怪我をしないだろうか
保護者とは、毎日のように神経をすり減らしています。
そんな風にして頑張っているのに、熱が出て救急受診をすれば、若い当直医から、
「親だから当然」
「軽症なのにこんな時間に受診して」
と”医学的見地”から露骨に嫌がられる・・・。
神経を尖らせている保護者たちが、医療者の同情の無い態度に不愉快になるのは当然といえます。
医療者側から意見をするならば、
「たかが同情を求められて受診されては困る。一刻をあらそう症例の手当てができなくなる」
・・・まさにそのとおりなのですが、保護者たちは少しでも重責を肩代わりしてもらうことで思考がいっぱいの状況ですから、理路整然と救急受診の在り方を説いても納得しません。
保護者たちの感情は、ともすれば、”モンスターペアレンツたちのワガママ”にもなりうるのですが、医療者側が保護者たちと心理的な距離を置きすぎるあまり、保護者たちの不満は、
「保護者の大変さが伝わっていない」→「わかってくれないダメな医者」
という論理にすり替わり、かえって新たなモンスターを産み出す母地となってしまいます。
小児診察の医療面接で中心となる保護者たちとは、このような背景をもった人々だということを、医療者側も認識しておく必要があるでしょう。
ですから、どんなにコンビニ受診だと思ってしまっても、
「大変でしたね」
の一言くらいは言ってあげましょう、
いくら自治体が軽症での救急受診やコンビニ受診を控えるように呼びかけても、その数があまり減らないのは、こうした保護者の主観に立った取り組みがなされていないからかもしれませんね。
『保護者視点』で考えねばならないものとして、”小児の予防接種”が挙げられるでしょう。
とくに、この”予防接種”に関しては、小児診察の際に高頻度で相談されます。
定期予防接種のスケジュールを立て、それを遂行していく作業は、決して容易なものではありません。
なぜならば、小児は容易に発熱するため、スケジュール通りに進まないことが多いからです。
きっと習い事の予定なども詰まっているでしょう。子育て未経験者はピンとこないかもしれませんが、習い事に月謝が10,000円、は当たり前であり、なおかつ「休んだぶん、月謝が返金されるわけではない」のですから、親たちは月謝分のモトをとろうと奔走するのです(いえいえ、もちろん習い事先によりますけど)。
さきほどは救急受診を例に挙げましたが、一般の小児科外来を訪れる保護者の方々のなかにも、やはり疲れ果てて”いっぱいいっぱい”の人が大勢います。
そうした保護者のストレスを少しでも減らしてあげられるように、クリアカットなアドバイスをするのが、医療者の役割ではないでしょうか。
この本は、発刊されて10年近く経過しています。
2013年に新しい版が発刊されていますから、参考にされる方はそちらを選んでいただいた方がよいでしょう。
本書の特徴は、保護者への模範的アドバイスを例示している点です。
例えば、ワクチン接種の際に必ずといってよいほど尋ねられるのが、接種によるリスクです。
「うちの子は卵アレルギーですが、インフルエンザのワクチンをやっても大丈夫ですか?」
という問いかけに、今まで皆さんはどのようにお答えされてきたでしょう?
「たいていは大丈夫ですよ」
「心配ならやらないでおきますか?」
といった声掛けくらいでお茶を濁したりはされていませんでしたか?
本サイトは著作権を重視するポリシーで運営しておりますので、本書のレビューを細かく記載できないのが歯がゆいところですが、卵アレルギー患児へのインフルエンザワクチン投与でどの程度副作用が起きうるのか、大変明快な回答例を掲載しています。
最近では、複数のワクチンの同時接種について議論が盛んですし、ワクチンについて専門家並に詳しい主婦の方もおられます。ネット情報が豊富な時代ですから、曖昧な返答をしていてもすぐに見破られるでしょう。
ワクチン関連の相談とは、案外明快に答えにくい分野です。
メリットとデメリットを天秤のかけ、最終的には患者さんの自己責任で接種するかどうか決定してもらう・・・というのはスジですが、そもそも医療従事者側も、患者さんたちにあまり明快に情報をお伝えできていなかったのではないでしょうか。
慌てて添付文書を取り寄せたり、何歳にどのワクチンを接種すればよいのか調べたり・・・という経験をされた先生も、決して少なくはないと思います。
本書は接種のリスクを具体的なパーセンテージで示していたり、保護者への説明方法をクリアカットな内容で紹介していますので、小児診察に深みが増すことは間違いありません。
保護者視点での疑問に答える書籍として非常におススメですので、一読を検討してみてください。