【この記事は、2023年11月04日にUPしました】
池田くん
先日のPVIについて
、ご指導ありがとうございました。
朝比奈先生
今日は心房細動の管理についてのお話をしましょう
吉永さん
はい。
それは、前に池田くんが言っていた、レートコントロールか、リズムコントロールかっていうハナシですか?
それは、前に池田くんが言っていた、レートコントロールか、リズムコントロールかっていうハナシですか?
池田くん
リズムコントロールは、ざっくり言えば洞調律を維持する治療で、レートコントロールは心房細動のまま、心拍数を抑えるのみってやつですね
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池田くん
リズムコントロールでも、レートコントロールでも予後は変わらないって聞いたことがあるんですが、もしそうならPVIの意義ってどこにあるんでしょうか?
朝比奈先生
・・・・・・
吉永さん
じゃあ、心房細動になっても、抗凝固療法と心拍数を落とすことだけしておけばOKってこと?
池田くん
そうだよ。
だって、両群ともおんなじなんだもの。
・・・朝比奈先生?
朝比奈先生
うーんとね、池田くんのはなしって、AFFIRM試験のことを指しているのかしら。
池田くん
あ、たしかそんな名前の臨床試験だったとおもいます。
朝比奈先生
池田くんは、その原著にも目をとおしてみたの?
池田くん
ギクッ
朝比奈先生
その様子だと、なにかの本にちょこっと書いてあるのを読んだだけとか、先輩の発言を鵜呑みにしただけってのようね。
池田くん
・・・・・・ご推察のとおりです
吉永さん
なにやってんのよ、池田くん!
池田くん
ええっ? なんでおれが吉永さんに怒られてるの?
朝比奈先生
アンチョコ本での勉強を否定しないわ。
手っ取り早しうえに、わかりやすく、かつ広い知識をえられるもの。
このコーナーだって該当するでしょうし
朝比奈先生
でも、そこに書かれている中身は大雑把な結果しか記載されないわ。
だから、意外性のある報告を目の当たりにしたとき、「それってホント?」という目で原著を読んでみたほうがいいわね
池田くん
え、ええ・・・・・・
朝比奈先生
さて、AFFIRM試験についてなんだけど、この試験は心房細動の患者たちをリズムコントロール群とレートコントロール群に分けて、予後をみていったの
吉永さん
リズムコントロール群って、抗不整脈薬で維持したんですか? それともPVI(アブレーションでの肺静脈隔離術)ですか?
朝比奈先生
原則として抗不整脈薬よ
吉永さん
心房細動にも、発作性のもの、持続性のもの、慢性のものがありますよね
朝比奈先生
そう。細かい内訳は、初回発症例が35%台、症状が二日以上続いた症例が69%よ
吉永さん
あれ?
左房径はどのくらいの症例が多かったんですか?
左房径はどのくらいの症例が多かったんですか?
朝比奈先生
いい質問よ、吉永さん。具体的な左房径の詳細はわからないけれど、正常例は35%しかいなかったようね
吉永さん
なんてゆうのかな・・・・・・、初回発症例が35%くらいってことは、逆にいえば再発例が65%くらいってことですよね。それに、普通の臨床感覚からすると、初回の発作って24時間以内に収まるものがほとんどですから、AFFIEMの7割を占める「二日以上持続した心房細動」を呈する症例って、それなりに進行した症例ばかりって気がするんですが
朝比奈先生
さらに、過半数が左房拡大例ということは?
吉永さん
うーん。やっぱり、このAFFIRMの患者群って、すっかり心房筋のリモデリングが進んじゃっている症例がかなり含まれているんじゃないんですか? だから、洞調律を維持しようとしても管理がむずかしいんじゃないですか?
朝比奈先生
そう。
それに、仮に心電図で洞調律を維持していたとしても、伸びきった左房筋ではatrial kickに期待できないわ
それに、仮に心電図で洞調律を維持していたとしても、伸びきった左房筋ではatrial kickに期待できないわ
池田くん
atrial kickって、なんですか?
朝比奈先生
左房が収縮することで、左室に効率よく血を送り込む機能のことよ
池田くん
なるほど。サッカーで例えるなら、ストライカー(左室)にパスするアシストみたいなものが、atrial kickなんですね
吉永さん
左房筋が伸びきっていると、いくら電気生理学的に洞調律でも、血行動態上は有効な収縮がえられないってことよ
池田くん
左房筋のPEAってわけか
朝比奈先生
だから、AFFIRM以降もいろんな試験がおこなわれたんだけど、左房径が拡大した症例だと、いくらリズムコントロールを施しても、良好な予後がえられなかったのよ
池田くん
リズムコントロールをするなら、症例をえらべってことですね
朝比奈先生
さて、AFFIRMのはなしに戻るけど、左房径についての詳細な検証はされていないわ。
これが、AFFIRM試験の問題点のひとつ
これが、AFFIRM試験の問題点のひとつ
池田くん
ふーん。
現代の視点でみると、みえてくるものもあるんですね
現代の視点でみると、みえてくるものもあるんですね
朝比奈先生
つぎに、クロスオーバーの問題ね
池田くん
クロスオーバー?
朝比奈先生
本来は交差試験というれっきとした研究手法につかわれる用語なんだけど、最近だと「A群とB群の中身が互いにごちゃ混ぜ」という意味のものにまで使用されているわね
吉永さん
ごちゃ混ぜというと、リズムコントロール群なのにレートコントロール群が混ざったり、レートコントロール群なのにリズムコントロールが混ざったりしてるってことですか?
朝比奈先生
そうよ。AFFIRMでは、五年経過時点でレートコントロール群の34.6%が洞調律なの。”心房細動のままレートコントロール”というはずの群なのに、三人に一人が洞調律ってわけ
池田くん
ええっ!?
朝比奈先生
一方、リズムコントロール群では、62.6%しか洞調律を維持できていないわ。”洞調律化をさせた群”対”洞調律化させなかった群”で比較しようとした場合、これだけ多くのクロスオーバーがあれば、「五年後の予後はレートコントロール群の方がp=0.008で良好」と結論されても腑に落ちないわ
池田くん
それじゃあ、何と何を比べたのかわからないですよね
朝比奈先生
”洞調律化させた、させなかった”のではなく、”させようとした群”対”させようとしなかった群”という方がAFFIRMの結果を正しく解釈できそうだけど
池田くん
心房細動の進行例に対して、無理して抗不整脈薬を盛っても悪さしかしないってことですね
朝比奈先生
なぜリズムコントロール群がいけなかったのかという点については、本論文のtable.3 adverse eventsでtorsade pointesやcardiac arrestといった事象が多かったことが尾を引いている印象だけど、抗不整脈薬の心毒性を指摘しているだけで、リズムコントロールという戦略自体を否定しているわけではないのよね
池田くん
あ、たしかにAFFIRMの全2033例中、PVI施行例は14例しかいないですね。
これじゃあ、「抗不整脈薬でのリズムコントロールにこだわるな」ってだけで「抗不整脈薬以外の方法ではどうなのか」はわかりませんね
吉永さん
ああ、だからPVIの有用性が示されてきたんですね。あれって究極のリズムコントロールですもの。
なんでもレートコントロールで構わないんだったら、PVIなんて意味がなくなります
なんでもレートコントロールで構わないんだったら、PVIなんて意味がなくなります
朝比奈先生
ここまでのハナシをまとめると、AFFIRMは「心房細動はリズムコントロールにこだわらなくていい」ではなくて、「進行した心房細動に抗不整脈薬を盛ってもあまりイミがない」という結果だったってことね。これがクロスオーバーの多い結果とか、患者背景の一切を無視して拡大解釈されてしまって、「レートコントロールでも構わない」の一点のみが強調されてしまったってわけ
朝比奈先生
レートコントロールにする症例というのは、「リズムコントロールにもっていけないから、やむなくレートコントロール」というスタンスで考えるべきね
池田くん
ようやくわかりました。なんてゆうか、世間的にも一時期レートコントロール至上主義のような風潮があったので・・・・・・
朝比奈先生
ちょうどβ遮断薬が見直されて、心不全治療のパラダイムシフトが起きた時期と重なったからね。β遮断薬はレートコントロールの第一選択薬だから、「とりあえずなんでもβ遮断薬」という時代の風潮に合致した、という要素もあるわね
吉永さん
でも、いまはちょっと「なんでもPVI」という風潮かもしれませんね
朝比奈先生
そのあたりは、PCIと同じように過渡期を経過して、これから「本当の適応」の見直しにうつるんだと思うわ。いくらなんでも、発作が年に1,2回程度で、持続時間も数十分という患者にまで無理強いするのはよくないわ
吉永さん
デバイスの開発と同時に、いろんな治験がそろうのを待つ段階なんですね