【この記事は、2021年9月22日に修正しました】
朝比奈先生
さあ、前回の続きよ
吉永さん
学級委員長の洞結節が、肺静脈の出口あたりにたむろしているヤンキー集団にクラスの指揮権を奪われる学園物語でしたよね
朝比奈先生
そうそう。池田くんならどうする?
池田くん
んー、僕は波風たたないように、長いものに巻かれますかね
吉永さん
フルパワーで負け犬じゃない!
朝比奈先生
やれやれ・・・・・・・。
その様子だと、宿題の意味がイマイチつかめなかったようね
その様子だと、宿題の意味がイマイチつかめなかったようね
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池田くん
でも、やっぱ周りの雰囲気って大事ですよ。クラスの連中が不良政権下に慣れてしまってるなら、歯向かったところで味方なんていないじゃないですか。いやですよ、玉砕なんて
朝比奈先生
まあ、その考え方を心房細動治療に当てはめるなら、”rate control”という概念に当てはまるかもね
池田くん
”rate control”って、無理して洞調律を目指さなくてもいいってやつですか?
朝比奈先生
そうよ。すっかり心房細動が進行してしまった心臓は、洞調律に戻さずに心拍数を調整することに重点をおくべきね。だって、心房細動が続くと左房筋が伸びきってしまって、キチンと収縮しなくなるんだもの
朝比奈先生
そんな心房じゃあ、たとえ電気生理学的に洞調律に戻ったとしても、”心房のPEA”みたいな状態に過ぎないから、心房から心室に血液を押し込む、いわゆるatrial kick作用は期待できないわ
吉永さん
なるほど
朝比奈先生
もっとも、それは”すっかり進行した心房細動”が前提のハナシよ。
rate controlという概念に一石を投じた試験のウラ側のハナシとか色々あるから、またの機会に解説しましょう
rate controlという概念に一石を投じた試験のウラ側のハナシとか色々あるから、またの機会に解説しましょう
朝比奈先生
さて、本題に戻るわよ。
今回はリズムコントロールを目指したハナシだってことを覚えていてちょうだい
今回はリズムコントロールを目指したハナシだってことを覚えていてちょうだい
池田くん
はい
朝比奈先生
肺静脈に巣くう不良グループ細胞たちを何とかするには、
●薬物療法
●アブレーション
の二つの方法があるわ
●薬物療法
●アブレーション
の二つの方法があるわ
吉永さん
薬物というと、抗不整脈薬のことですね
朝比奈先生
これも乱暴な言い方になるんだけど、抗不整脈薬には心筋の収縮抑制作用があるわ。つまり、「学級委員長とクラスのみんなもろとも、不良グループの元気をなくさせる」というイメージかしら
池田くん
うわっ。周りの連中にとってはエラい迷惑ですね
朝比奈先生
その結果、不良たちがぐったりするの。で、「いま俺たちはイタズラする元気がなくてかったるいから、学級委員長、好きにしな。んったく、だりぃぜ」という風に不良の活動が停止するの
池田くん
朝比奈先生、演技うまいですね
朝比奈先生
医者の仕事の半分はペルソナだからね
朝比奈先生
不良グループが沈黙した結果、洞結節が・・・・・・ちなみにこの学級委員長もフラフラとしているんだけど、蒼い顔をしながら「よ、よし、あの不良ども黙ったな。また俺の天下だ」と、クラスの指揮権を奪還するわけ。こうして洞調律に復帰するのよ
吉永さん
なんか可哀そう。もし、その学級委員長が体の弱い人だったら倒れていますね
朝比奈先生
その通りよ、吉永さん。
そういうのを、”洞不全”というの
そういうのを、”洞不全”というの
池田くん
なるほどー。
心房細動が停止したあと、たまーに洞調律に移行するまでに何秒も心静止がつづく患者さんがいるじゃないですか。そういうタイムラグのある人って、もともと洞結節が弱かったからなんですね
心房細動が停止したあと、たまーに洞調律に移行するまでに何秒も心静止がつづく患者さんがいるじゃないですか。そういうタイムラグのある人って、もともと洞結節が弱かったからなんですね
朝比奈先生
そういうことね。
そんな頼りない学級委員長なら、副委員長が常に学級委員長を見守って、必要があれば代行サポートをする必要がある・・・・・・。それが、”人工ペースメーカ”よ
そんな頼りない学級委員長なら、副委員長が常に学級委員長を見守って、必要があれば代行サポートをする必要がある・・・・・・。それが、”人工ペースメーカ”よ
池田くん
ははぁ、わかりやすい。
前々から疑問だったんです。なんで心房細動にペースメーカなんて入れるのかって。
前々から疑問だったんです。なんで心房細動にペースメーカなんて入れるのかって。
朝比奈先生
発作性心房細動と洞不全症候群を合併している症例は徐脈頻脈症候群ともいって、さっき述べたような機序で脈が伸びるからペースメーカを入れるのね。
あと、徐脈性心房細動・・・単純に脈の遅いタイプの心房細動に対してもペースメーカを入れる場合があるわね
あと、徐脈性心房細動・・・単純に脈の遅いタイプの心房細動に対してもペースメーカを入れる場合があるわね
朝比奈先生
ついでだから言っちゃうけど、洞不全症候群でペースメーカを入れている患者さんが、慢性心房細動になったためにかえってペーシングがいらなくなる場合があるじゃない? あれは、クラスの音頭取りが肺静脈出口にたむろする不良グループによって政権交代したようなものね
吉永さん
病欠しがちな学級委員長よりは、毎日元気に登校してくる不良たちの方がクラスの音頭取りとしてマシ・・・ってところですかね。不良っていうと印象が悪いですけど、そういう場合はかえって心房細動に固定化してくれた方がありがたいかもしれませんね
朝比奈先生
もっとも、心房細動そのものによる心機能低下のリスクは必発だけどね
朝比奈先生
・・・・・・そうそう、抗不整脈薬による弊害、すなわち心筋が陰性変力作用に長期間さらされる点も忘れてはならないわ
吉永さん
とくに、シベンゾリンやピルシカイニド、ジソピラミドといったナトリウム遮断薬・・・・・・、つまりⅠ群抗不整脈薬ですね
朝比奈先生
もともと心機能が良好なら問題視されることは少ないとされているけど(2021年時点では)、左心駆出率が30%とか、収縮不全が顕著な例だとⅠ群抗不整脈薬によってますます心臓の元気がなくなってしまうかもしれない
池田くん
だから、心筋梗塞後のⅠ群抗不整脈薬は禁忌なんですね
朝比奈先生
そうね。虚血心だと心筋を流れる電気の向きがおかしくなっていて、下手にⅠ群抗不整脈薬でナトリウム電流に介入されてしまうと、ますます電流が狂ってしまう・・・・・・催不整脈作用の方が問題視されることも多いけど
池田くん
あ、あのー・・・・・・
朝比奈先生
?
池田くん
すみません、”ナトリウム電流”を、ざっくりと教えてほしいんですが・・・・・・
朝比奈先生
ああ、ごめんなさい。池田くんの言うとおりね。不整脈の話題になると、こういう電気生理学用語が当然のように頻出するから、非不整脈医の聞き手は疎外された気になってウンザリするのよね
朝比奈先生
ナトリウム電流は、本当にざっくりと説明すると、”心筋収縮の前座”よ
池田くん
前座・・・・・・ということは、真打ちは何ですか?
朝比奈先生
カルシウム電流よ。カルシウム
朝比奈先生
細かい脱分極や膜電位のハナシは、あえて割愛するわ。まず、心筋収縮の真打ちはカルシウム電流なんだけど、ナトリウム電流はそのカルシウムが働けるように下準備をする電流なの
池田くん
じゃあ、そのナトリウム電流が阻害されたら・・・・・・
朝比奈先生
そうね。前座が遅刻することで、真打ちの登場が遅れる、もしくは阻害されるわね
朝比奈先生
もともと不整脈の心臓だから、ナトリウム電流が(前座が)おかしくなっているのを調整するためにナトリウム遮断薬を使うわけなんだけど、正常な心筋が相手だったら、結果的に心筋収縮にまで影響してしまうでしょうね
朝比奈先生
それだけじゃなく、薬剤性洞不全症候群の直接的原因にもなりうるから、徐脈の患者さんへの投与は慎重にしないとね
吉永さん
さきほどの”学級委員長もろとも元気を無くさせる”ハナシですね。
抗不整脈薬をやめるか、やめられないなら(=心房細動が起きやすくなって困るなら)ペースメーカのバックアップを入れるか、判断に迫られそうですね
朝比奈先生
さて、次はいよいよアブレーションのハナシになるんだけど、ここらへんで一旦休憩をいれましょうか