問1 急性冠症候群(ACS)の概念について、誤っているものをえらべ。
a) ACSは冠動脈内のプラークが破綻して血栓を生じることで発症する。
b) ACSは、労作性狭心症を生じる高度狭窄病変から生じることが多い。
c) 不安定狭心症と非ST上昇型心筋梗塞は初療時に厳密に分類する必要はない。
d) ACSの最終診断においては、CK-MBよりも心筋トロポニンの使用が推奨される。
e) ST上昇型心筋梗塞には、新規の左脚ブロックも含まれる。
解答を読む
a)、b) しばしば誤解されるポイントであるが、“冠動脈内造影(CAG)で75%以上の狭窄があればACSの誘因になる”というわけではない。造影上、25%程度の狭窄程度の病変でプラーク破綻を起こし、血栓閉塞する場合も少なくない。
冠動脈にプラークが生じ、それが徐々に局所的な炎症で動脈硬化性病変に育って内腔狭窄に至れば労作性狭心症になり、脆弱なプラークが破れればACSになるのである。
c) 改訂のポイントのひとつであり、不安定狭心症と非ST上昇型心筋梗塞を合わせて、非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)として扱うことになった。
NSTE-ACSは、軽症~重症まで多彩(CAGで写してみないとわからない)という側面があり、初療時に厳格に分類する意義はすくない。
d) J-MINUET研究では、心筋トロポニンのみの上昇によって診断された非ST上昇型心筋梗塞例はCK-MB上昇を伴う症例と同様に長期予後が不良であった。従って、CK-MBのみでは、心筋トロポニンのみが高いACS症例を見逃しうる(保険上も、同一日にどちらかしか算定できない)。
e) 文章通り。
2018年版の「急性冠症候群診療ガイドライン」は、「ST 上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン」、「非ST 上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン」、「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン」の3 つのガイドラインを包括して発行することになった。
問2 ACSの疫学について誤っているものをえらべ。
a) 欧米諸国とくらべて、本邦でのAMI発症例はすくない。
b) AMI発生時の年齢は、男性よりも女性の方が高い。
c) 欧米では、1980年代後半から2000年代にかけて、AMIの年齢調整発症率は減少した。
d) 本邦では、1990年代から2000年代にかけて、AMIの年齢調整発症率は横ばいである。
e) 非ST上昇型心筋梗塞の方が、ST上昇型心筋梗塞よりも慢性期の死亡率が低い。
解答を読む
女性ホルモンには心血管系に対する保護的作用があるとされ、閉経後から女性のAMI発症数が増える。
また、1980年代後半からACE阻害薬やスタチンの服用率が増えたため、冠疾患への一次予防効果が生まれ、AMIの発症率が下がったと考えられている。一方、本邦ではこの一次予防効果が高齢化と高い喫煙率によって相殺され、横ばいに転じている。
非ST上昇型心筋梗塞とST上昇型心筋梗塞では慢性期の死亡率に差が無い。
問3 ACSの救急医療体制について、誤っているものをえらべ。
a) ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の再灌流療法は、発症から120分以内が目標である。
b) STEMIへの血栓溶解療法を開始する目標時間は、医療従事者との接触(救急隊との接触含む)から血栓溶解薬投与まで30分以内である。
c) STEMIへの経皮的血管形成術を開始する目標時間は、医療従事者との接触からバルーン拡張ないし血栓吸引療法まで90分以内である。
d) 再灌流療法が実施できない施設にSTEMI患者が受診した場合、その施設の滞在時間(door-in-door-out time)は90分以内が目標である。
e) プレホスピタル12誘導心電図は、死亡率の減少に寄与する可能性が高い。
解答を読む
再灌流療法が施行できない施設にSTEMI症例が受診した場合、その滞在時間は30分以内が目標とされる。従って、急患診察をする場合は、診察開始までの待ち時間をいかに短くするかも重要である。
問4 胸痛疾患に対する初期対応として、誤っているものを2つえらべ。
a) 非ST上昇型ACSの場合、病院到着から90分以内にバルーン拡張を行うことが予後改善に直結する。
b) 急性下壁心筋梗塞症を疑った場合は、右側胸部誘導でV4RのST上昇の有無を確認する。
c) 心原性の検査異常をともなわず、飲食で誘発され、飲水で軽減する場合は食道痙攣の可能性を考える。
d) ST上昇の心電図診断基準上、STレベルの計測はJ点で行うことになっている。
e) V7-V9誘導において、ST上昇とみなす基準は1.0mm以上である。
解答を読む
a) ST上昇型心筋梗塞症の場合は、病院到着から90分以内にバルーン拡張や血栓吸引療法といったPCIを行うことが目標とされているが、非ST上昇型のACSでは、PCIまでの目標時間が明確にされていない。
b) 右室梗塞の合併を確認するためである。また、右室梗塞合併例への硝酸薬投与は禁忌であることもあわせて覚えておきたい。
c) 文章通り。症状の表現が困難な症例が多いため、必ず虚血性心疾患の除外は必要であるが、「心臓じゃないからウチの科じゃない」とするのではなく、鑑別疾患として患者さんに提示する必要はある。
d) 文章通り。
e) 背部誘導の場合、0.5mm以上のST上昇で優位とする。
問5 非ST上昇型ACSの診断で誤っているものをえらべ。
a) 入院時のST低下のレベルが高度であるほど(STが低いほど)、予後不良である。
b) 純後壁梗塞と非ST上昇型ACSの鑑別点は、ST低下の主体が前者ではV1-V3誘導、後者ではV4-V6誘導という点である。
c) QRS幅の延長は心筋虚血を反映しない。
d) 全例が緊急カテーテル検査の適応となるとは限らない。
e) 他肢病変や不安定狭心症など、多彩な疾患群の総称であるため、その予後や重症度も幅がひろい。
解答を読む
QRS幅は、ST変化よりも鋭敏に心筋虚血を反映する。
問6 TIMIリスクスコアに含まれる冠危険因子として、当てはまらないものをえらべ。
a) 家族歴
b) 高血圧の有無
c) 高コレステロール血症の有無
d) 糖尿病の有無
e) 高尿酸血症の有無
解答を読む
高尿酸血症ではなく、「現喫煙の有無」である。
問7 TIMIリスクスコアにあてはまらないものをえらべ。
a) 年齢 (65 歳以上)
b) 3つ以上の冠危険因子
c) 既知の冠動脈有意 (≧ 50%)
d) 7 日以内のアスピリンの服用
e) 24 時間以内に2回以上の狭心症状の存在
f) 心電図における0.5 mm 以上のST 偏位の存在
g) 心筋バイオマーカーの上昇
h) 上記のいずれもリスクスコアの指標である。
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このリスクスコアは、病歴聴取と外来での簡便な検査で評価が可能であり、プライマリケアの場においても、最も頻用されているスコアである。
問8. GRACE ACSスコアにあてはまらないものをえらべ。
a) 年齢
b) 心拍数
c) 拡張期血圧
d) 血清クレアチニン値
e) Killip分類
f) 心停止での入院
g) 心筋バイオマーカーの上昇
h) 上記のいずれもリスクスコアの指標である。
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拡張期ではなく収縮血圧がどのくらい低いのか、で評価される。
上記選択肢のほか、「STの偏位」も含まれる。
GRACEスコアは、ST上昇の有無にかかわらず、ACSのリスクを評価するうえで用いられており、各項目に重み付けをしているぶん、TIMIスコアより予測精度が高いとされている。
問9. ACSへの初期治療として、正しいものをえらべ。
a) ACSと診断された場合、ルーチンでの酸素投与が推奨される。
b) ACSと診断された場合、ルーチンでの硝酸薬投与が推奨される。
c) 循環血漿量がすくないACS症例への除痛において、塩酸モルヒネは強く推奨される。
d) アスピリン禁忌のACS症例に対しては、チエノピリジン系抗血小板薬を用いる。
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a) 2017年から2018年にかけて、低酸素血症の無いACS症例への酸素投与に関して、多くの否定的な報告が続いたこともあり、ルーチンでの酸素投与は推奨されなくなった。ただし、低酸素血症や、酸素飽和度の測定が困難な状況下での酸素投与を否定するものではない。
b) 高度徐脈や右室梗塞の恐れがある場合は禁忌である。
c) モルヒネは血管拡張作用がある(だから肺うっ血に有効)。従って、循環血漿量がすくない症例では血圧の低下が起こりうる。このような場合はブプレノルフィンの使用も考慮する。
d) 文章のとおり。