問1 肺血栓塞栓症(PTE)が疑われた場合に用いられるWellsスコアについて、該当項目ではないものをえらべ。
a) 深部静脈血栓症(DVT)の臨床徴候
b) 心拍数>100bpm
c) 2週間以内の手術
d) 血痰ないし喀血
e) 悪性腫瘍
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臨床の場において、術後にDVTを生じてPTEに至る例は少なからず経験されるが、その好発時期については非循環器内科医もおさえておきたいポイントである。本問は、正しくは「4週間以内の手術」である。ただし、直近で3日以上の長期臥床の病歴もリスクに含まれる。
問2 改訂ジュネーブ・スコアについて、該当項目ではないものをえらべ。
a) 年齢>65歳
b) 心拍数>75bpm
c) 1か月以内の手術、または骨折
d) 悪性腫瘍
e) 両側性の下肢痛
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正しくは「片側性の下肢痛」。
改訂ジュネーブ・スコアは、Wellsスコアに比べて年齢の項目が加わったほか、頻拍のcut off値が75bpmまで引き下げられている。
問3 Wellsスコアや改訂ジュネーブスコアで、肺血栓塞栓症(PTE)の可能性が低~中等度の場合に、まず行うべき検査はどれか。
a) 造影CT
b) Dダイマー測定
c) FDP測定
d) ABI測定
e) 経胸壁心エコー図
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a) 本問は「まず行うべき検査」であり、造影CTよりDダイマーの方が優先度は高い。
b) ガイドラインの順序に従えば、まずDダイマーである。臨床の現場では、採血の結果を待つ間にエコーで右心負荷所見の有無をチェックするものと思われる。
c) 日常でPTEの診療に携わることがすくない診療科だと、“何らかの凝固系採血“と曖昧な記憶になり、ついひっかかってしまうかもしれない。
d) 深部静脈血栓が残存している恐れがある場合は禁忌になりうる。
e) まずはDダイマー。
問4 肺塞栓症重症度指数(PESI)スコアに該当しない項目をえらべ。
a) 年齢
b) 女性
c) 癌
d) 慢性心不全
e) 慢性肺疾患
f) 心拍数110bpm以上
g) 収縮期血圧100mmHg未満
h) 呼吸回数30bpm以上
i) 体温36℃未満
j) 精神状態の変化
k) 酸素飽和度90%未満
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正しくは「男性」。
PESIは、文字通りPTEの短期死亡率を評価するスコアリングシステムである。上記項目にそれぞれ+10~+60のポイントが付けられており、合計数が86点以上になると、30日間の死亡リスクが中等度(クラスⅢ)以上となる。
問5 肺血栓塞栓症(PTE)の症例において、
1) ショックには至っていない
2) PESIスコア上、クラスⅣ
3) 右室機能不全あり
4) トロポニンIの上昇あり
の場合、その重症度クラス分類はどれに該当するか?
a) 高リスク
b) 中等度(高)リスク
c) 中等度(低)リスク
d) 低リスク
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本設問の1)~4)が、PTEの重症度クラス分類で必要な項目である。
医師国家試験の漠然とした知識のままだと、「PTEのときは血栓溶解薬」と画一的に考えがちであるが、実際にはPTEの重症度を分類して、急性期における治療方針を定めていく(したがって、必ずしも血栓溶解薬を用いるとは限らない)。
問6 重症度クラス分類上、外科的またはカテーテル的血栓摘除の適応となるものはどれか。二つえらべ。
a) 高リスク
b) 中等度(高)リスク
c) 中等度(低)リスク
d) 低リスク
e) 心停止
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中等度リスクは抗凝固療法を行いつつ、入院環境下で慎重にモニタリング。低リスクの場合は抗凝固療法を行いながら、早期退院可である。
なお、2017年版において、血栓溶解療法の使用も血行動態が不安定な症例のみに限定化された。
問7 急性肺血栓塞栓症(PTE)への抗凝固療法において、シングルドラッグアプローチが可能な薬剤を二つえらべ。
a) リバーロキサバン (イグザレルト)
b) アピキサバン (エリキュース)
c) エドキサバン (リクシアナ)
d) ダビガトラン
e) ワルファリン
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PTEの急性期において、リバーロキサバンとアピキサバンは、高容量による初期治療が可能である(推奨クラスⅠ)。
エドキサバンとワルファリンは、急性期のうちは非経口抗凝固薬との使用が必要である。
・エドキサバンは非経口薬(一般的にはヘパリン)で加療後、エドキサバンに切り替える。
・ワルファリンは単独投与だとプロテインCの活性が抑えられてしまい、逆に凝固能が亢進してしまう。
なお、中枢型の深部静脈血栓症も同様のエビデンスレベルとされてる。
問8 深部静脈血栓症(DVT)の症例に対する抗凝固療法の使用に関して、推奨されないものはどれか。
a) 治癒に至らない担癌症例への3か月以上の投与
b) 誘因が可逆性の場合で、3か月間の投与
c) 末梢型DVTであれば原則投与
d) 誘因が無い場合、抗凝固療法が使用できないためアスピリンを用いる
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a) DVTへの抗凝固療法の明確な継続期間は定められておらず、個々の症例に合わせて対応するしかないが、担癌症例はDVT再発リスクが非担癌症例の3倍に相当するため、可能であれば長期間の内服継続が望ましいとされる。
b) ガイドラインで記されている「可逆性の誘因」の具体例がはっきりとしない面はあるが、可逆性の誘因による場合は、3か月間で抗凝固療法を中止するか、継続するか検討してもよいとされる。
c) 末梢型DVTに抗凝固療法を使用することはあるが、予後良好な例が多いため、出血のリスクが上回る可能性があり、画一的な使用は避けるべき、とされる。
d) 長らくDVTへのアスピリン使用は効果が期待されていなかったが、大規模studyでDOACの半分程度のDVT抑制効果が示されたことから、抗凝固療法が使用できない場合の選択肢として有効とされるようになった。この内容も、2017年版に追記された文章である。
問9 下大静脈フィルター、弾性ストッキングの着用に関して正しいものをえらべ。
a) 中枢型の深部静脈血栓症の場合、原則的に全例に対して下大静脈フィルターを留置する。
b) 肺血栓塞栓症の再発予防の観点から、下大静脈フィルターの回収は好ましくない。
c) 抗凝固療法中に肺血栓塞栓症が増悪ないし再発した場合、下大静脈フィルターを留置する。
d) 弾性ストッキングの着用は全例において長期間継続するべきである。
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2017年版において、下大静脈フィルターと弾性ストッキングの使用が限定化された。
フィルターは抗凝固療法が使用できない場合に考慮される手技とされ、抗凝固療法を使用している症例では、主に肺血栓塞栓症の再発例に用いられる。
弾性ストッキングについては、着用を開始しても1年ほどで着用コンプライアンスが低下してしまい、明確なエビデンスに乏しいことが明らかになった。理論的には効果が期待できるものの、画一的な長期継続は推奨されない、とされた。
問10 慢性肺血栓閉塞性肺高血圧症への内科的治療で第一選択とされる薬剤をえらべ。
a) ボセンタン
b) リオシグアト
c) ベラプロスト
d) シルデナフィル
e) フロセミド
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外科的治療不適応症例や、再発する症例にはリオシグアトと抗凝固療法がクラスⅠで推奨されている。そのほかの血管拡張薬、利尿薬はクラスⅡaである。なお、シルデナフィルは肺動脈性肺高血圧症に適応がある。