この記事は、2018年12月4日に更新しました。
今回は精神科についてです。
唐突ですが、こんな経験はありませんか?
うつ病で精神科に通院中の患者さん。
15分ちかく時間を割いて、うんうんと傾聴し、親身になって相談にのったところ、
「こんなに話を聞いてくださった先生は初めてです。ありがとうございました。」
と、その患者さんは笑顔で帰宅していきました。
担当医のあなたも、患者さんが元気に退室されたので晴れ晴れした気持ちになりました。
―さて、一見まったく問題がない・・・、むしろ模範的とすらいえる医療面接の風景です。
もし、患者さんから屈託なく謝意を述べられたら、当然それはうれしいですし、医師としてのやりがいを感じることでしょう。
ところが、精神科の患者さんとの医療面接の場合は、ちょっとちがうようなのです。
親身になって接することが、かえって患者さんの医療従事者への精神依存度を高め、社会への自立をさまたげてしまう可能性があるのです。
しばしば誤解されがちなのですが、精神科診療はカウンセリングではありません。
医師による精神科治療とは、精神病理にもとづいた薬物治療を指すのであって、患者さんとのコミュニケーションがすべてではないのです。
ところが、内科診療の片手間で半端なカウンセリングをおこなったあまり、その精神科患者さんの
「あの先生はハナシを聞いてくれる」
という思いが、
「あの先生しかハナシを聞いてくれない」
という社会的孤立の原因になりうるのです。
したがって、精神科の患者さんとの距離感は一定さを保ち、彼らが医療従事者に寄りかかってばかりにならないような配慮が必要なのです。
『精神科・治療と看護のエッセンス』
本書は発刊されてだいぶ年数の経過した書籍になります(1981年発刊)。
驚くべきことに、その間に改訂されていないにも関わらずロングセラーの書籍です。
本書の内容は目から鱗のものばかりです。
たとえば、前述した患者さんとの距離感についても詳しく記載されています。
たしかに、医師も人間ですから、患者さんに「話を聞いてくれるいい先生だ」などと言われれば、自分のモチベーションも上がります。
一見良好な関係を構築しているような気分に陥ってしまうわけですから、親身になりすぎてしまい、患者さんにデメリットを与えているということをなかなか自覚しにくい、という側面も発生します。
とくに、まじめで優しい医師ほど陥りやすいのです。
患者さんとの距離感が非常に重要で、対人関係を科学していくことが精神科領域の本領なのです。
筆者は出来るだけ具体的な内容を記述することを避けているつもりですが、本書では上記のような、心に刻まれる内容が数多く記されています。
真面目で患者さん想いの方ほど、本書は手に取って読んで頂きたいものです。
きっと明日からの診療が変わってきますよ。