問9.非ウイルス性肝硬変に関する記述として、正しいものをえらべ。
a) 自己免疫性肝炎の場合、非活動性の肝硬変であっても副腎皮質ステロイドの積極的投与が推奨される。
b) 原発性胆汁性肝硬変へのウルソデオキシコール酸の投与は予後改善に寄与しない。
c) 原発性硬化性胆管炎への副腎皮質ホルモンの投与は予後改善に寄与しない。
d) アルコール性肝硬変において、禁酒によって肝線維化が改善する。
e) アルコール性肝硬変において、禁酒によって発癌率が低下する。
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解答 c)
a) 自己免疫性肝炎の治療は副腎皮質ステロイドであるが、非活動性の肝硬変の場合にはステロイド投与の効果は不確実であり、投与は避けるべきである。
b) 予後を改善させるため、原則的に全例投与である。
c) 原発性硬化性胆管炎へのステロイド投与は予後を改善せず、投与を控えるべきとされる。
d)、e) アルコール性肝硬変に関しては、生検などでの検討例が少ないが、線維化改善の報告は明らかではない。また、禁酒で発癌率が上がることが報告されているが、これは禁酒で寿命が延びることで癌に罹患する機会が増えることを意味しており、禁酒と癌の発生がメカニズムとして直結しているわけではない点に留意する。
問10. 静脈瘤出血に対して有効性が確立されている薬剤を二つえらべ。
a) β遮断薬
b) 硝酸イソソルビド
c) グルカゴン
d) ニフェジピン
e) ドブタミン
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解答 a)、b)
β遮断薬は、β1遮断効果での心拍出量の低下、β2遮断効果とα交感神経賦活化による内臓血管収縮で門脈血液量が低下するとされている。近年は心疾患や敗血症、そしてCOPDにもβ遮断薬が脚光を浴びているが、門脈圧低下作用で静脈瘤治療にも第一選択の地位を確立している。ただし、上記の作用機序であるならば、β1選択性の高いビソプロロールやα遮断効果も併せ持つカルベジロールではなく、あえて古いプロプラノロールが最適ということになる。
硝酸イソソルビドも門脈圧を下げるため、静脈瘤には良い適応である。
一方で、グルカゴンなどは門脈血液量を増やすため禁忌である。
問11. 上部消化管の静脈瘤への侵襲的治療に関して、正しい記述を二つえらべ。
a) 予防的内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)と、内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)では、後者のEISの方が出血率が低く、再発防止に有用である。
b) EVLに比べ、EISの方が死亡率の低下に寄与する。
c) EISは高度肝障害例でも施術可能である。
d) バルーン下逆行性経静脈的静脈塞栓術は食道静脈瘤を標的とする。
e) 外科的治療としてHassab手術が挙げられる。
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解答 a)、e)
EVL vs. EISではEISに軍配が上がるものの、死亡率に差は無い。EISは、非代償性肝硬変にも施行可能だが、血小板が2万/μL以下であったり、低アルブミン血症やDIC例、腎機能低下例などでは禁忌になりうるため、副作用の少ないEVLが普及している。※ただし、実際にはEVLとEISを併用することが多いようである。
バルーン下逆行性経静脈的静脈塞栓術は血管内カテーテル手技の一種で、胃静脈瘤に対して行われる。
Hassab手術とは、脾摘と傍食道胃血管郭清術を言い、内視鏡的手技の困難例や、血小板減少が目立つ例で施行される。
問12. 胃静脈瘤に関して、正しい記述をえらべ。
a) 原発性胆汁性肝硬変では、肝線維化が高度に進行するまで胃静脈瘤は発生しにくい。
b) 原発性胆汁性肝硬変に合併した胃静脈瘤は難治性である。
c) 胃静脈瘤に対するシアノアクリレート注入法は、β遮断薬投与法と劣性を示したため、近年は施行されなくなった。
d) 胃静脈瘤の予後不良因子として、白血球数の高値が挙げられる。
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解答 b)
a) 肝線維化が軽度の内から胃静脈瘤が発生する。
b) 文章の通り。
c) シアノアクリレートとは、瞬間接着剤であるアロンアルファの成分である。アルコール注入での硬化療法や、β遮断薬の投与よりも成績は良好である。余談であるが、シアノアクリレートは『名探偵コナン』でも指紋検出に利用されていたことで有名である。
d) 予後不良因子としては、血小板数やプロトロンビン、総ビリルビン値がある。
問13. 経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)の禁忌ではないものをえらべ。
a) 70歳以上
b) 肝性脳症の既往
c) 心不全
d) 難治性腹水
e) Child-Pugh score 12点以上
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解答 d)
TIPSが、難治性腹水に対して著効の期待できる外科的治療法である。
しかしながら、肝性脳症の発生率は30%近くにのぼるほか、循環血症量の増加による心不全の発症リスクがあるため、慎重に適応を考慮する必要がある。本邦では保険適用が無く、おそらく試験問題に出題される可能性は低いと思われる。
問14. 肝性脳症を増悪させうるものをえらべ。
a) 積極的な低蛋白食
b) 緩下剤
c) ラクツロース(合成二糖類)
d) rifaximin
e) 亜鉛
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解答 a)
低蛋白食で自己の蛋白質分解が亢進してしまい、かえって肝性脳症が増悪してしまうことが報告されている。
肝性脳症の治療薬としては、上記b)~e)のほかに、分岐鎖アミノ酸の投与やバルーン下逆行性経静脈的静脈塞栓術、カルニチン投与が挙げられる。
問15. MELD scoreに含まれないものをえらべ。
a) 血小板数
b) ビリルビン
c) プロトロンビン時間
d) クレアチニン値
e) 透析治療の有無
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解答 a)
MELD scoreは、肝移植登録患者の重症度判定に用いられるスコアである。プライマリケアの場では使用されないため、複雑な計算式を覚える必要は無いが、肝硬変の予後予測因子にも数えられており、項目だけおさえておいてもよいであろう。
問16. 肝硬変の予後予測因子としてあてはまらないものをえらべ。
a) ADAMTS13活性
b) 高ナトリウム血症
c) 門脈圧
d) 肝臓スティフネス
e) 肥満
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解答 b)
予後予測因子は数多く報告されている。本問での正答は、高ナトリウム血症ではなく低ナトリウム血症である。
なお、聞きなれないADAMTS13活性とは、von Willebrandfactorを切断する肝臓由来の酵素であり、この活性が低下していると予後不良とされる。